昼間見る月白い月、青いお空に浮かぶ繭。

 

 

 

月は、闇の中にだけ浮かぶものでもないからね…。

 

 

 

それは、桜散る春の日の出来事。

「あれ…月(ユエ)…さん?」

休日、宿題を終えて窓を開けると、枝に腰掛けて空を眺めている月(ユエ)の姿が見えた。青空に透けそうな羽、長い、長い髪。稀代の魔術師『クロウ・リード』の手により作られたカードの守護者にして審判者、その名の通り「月」の力を持つ者。

ゆっくりと、少女…さくらの方を向く。

桜吹雪が、風に舞った。

さくらは、かけようとしていた言葉を失って、しばし見とれる。闇に煌煌と輝く月よりも、青い空に浮かぶ白い月はどこか儚く、消え入りそうな審判者をとけこませていた。

「ダメっ!!」

唐突に、失っていた言葉を思い出したように叫ぶ。黙っていたら、消えてしまいそうなので。

さくらの声に驚いて、月(ユエ)は頓狂な顔を作って見せた。そうして、ふっ、と、優しい笑みを見せたかと思うと、ふわりと枝から宙に舞った。ひらひらと、翼が羽ばたいたかと思うと、羽のような体が地に降り立ち、振り向くと、そこに審判者「月」の姿は無く、仮の姿…月城雪兎の姿に戻っていた。自分のいどころに少々戸惑った様子で、きょろきょろと周囲を見回し、振り仰いだ先に、さくらの姿を見つけてはにかんだ笑顔を見せた。

ややあって、玄関から少女の兄、挑矢が現れると、待ち合わせていたのか、二人揃って窓辺のさくらに手を振り、そのまま連れ立って出て行った。

少しだけ、ほんの少しだけ、胸の奥にちりちりと痛みを覚えて、再び見上げた空には変わらず白い月があった。目を凝らして探さないとわからない。透き通った、白い、月が。

(了)

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