ひどく恐ろしい夢を見ていた。枯れていく草花、汚染される、空と大地。宇宙から降り注ぐ炎の玉が、地上を焼いていく。すべてを見渡す高台で、少女が祈る。少女の纏うやすらぎに満ちたオーラが、かすかにゆらいで汚染がわずかに止まった。
「ヤクモさん、ヤクモさん、ヤクモさん」
祈りを捧げる少女よりさらに幼い、小柄な、少女が、祈りを捧げつづける少女、ヤクモの元へ駆けていく。
後ろに、三人のマトリクサーを従えて。
一人は真紅、炎のごとき鎧をまとい、大きな翼がひるがえる。
一人は紺碧、海をうつし、空を写す鮮やかな藍。纏った水が渦となる。
一人は黄塵、大地を揺らす、咆哮は獅子。
かつて、別の歴史において、地球を救った三人のマトリクサー。少女の役目はその三人に、力を宿した宝玉を渡し、ヤクモのいるセンターまで連れてくる事だった。
「みつかりました!ヤクモさんお探しの三人です!私、見つけました!!」
少女、ビンカがヤクモの元へ駆け寄る。これで、もう大丈夫、ビンカが、ヤクモの笑顔に安堵したとたん。
柔らかな笑顔がどろりと熔けた。
「…ダメよ、ビンカ、私…もう死んでしまったんですもの」
光を映さない、虚ろな瞳をビンカへ向け、ヤクモの体が崩れ落ちた。
「ヤクモ…さん?私、…私…、…いやああああ!!」
喉の奥がひきつれて、ビンカは悲鳴をあげた。
…
…
悪夢に目を覚ますと、まだ夜は明けていなかった。鼓動は、まだやまず、脳裏に焼きついた崩れ落ちるヤクモの姿を反芻して、震え上がる。我知らず、涙がこぼれた。
「ヤクモさん…怖いよ、私…怖いよう」
いつもであれば気丈に、バズーカ片手に、カードリアン相手にも一歩もひかないビンカだったが、こんなに静かで、月もない闇に不安になる。
自分を抱きしめるようにうずくまろうとすると、柔らかいモノがふわりと触れた。
そのやわらかさとあたたかさに、ビンカの腕が解ける。
見上げると、そこにいたのは金色の毛並みを持った大きな猫の姿をしたマトリクサー、クータルだった。
「うなされていたんだな」
眠っている他の二人に気取られぬように、クータルの腕がビンカの背中にまわった。
それがあまりにも自然だったので、ビンカは、すぽん、とその柔らかな体に身を預けた。きつく目を結んで、きゅ、とクータルの服の裾を掴んだ。
「…このまま、こうしていてもいいですか?」
クータルは返事のかわりに、ビンカの髪をやさしく撫でた。
やわらかく、やわらかく。
「…あったかーい」
かすかに微笑むと、ビンカはまた、眠りに落ちていった。…寝ぼけていたのかもしれない。
落ち着いたビンカの顔を確かめると、納得したように、クータルもまた、眠った。
(了)