突然ですが。味噌汁の具に、じゃがいもはナシなんでしょうか。私はかつて、友人達と泊りがけの宿泊に出、自炊した際に、じゃがいもとキャベツの味噌汁を作って、随分困惑されました。我が家では、キャベツとジャガイモの取り合わせの味噌汁は日曜の定番で、家族は皆好きだったのですが…。

 食の好みは千差万別であり、育った環境等に非常に左右される…、というお話。

 

 

ケビンマスクd.M.pランチタイムバトルマルス(スカーフェイス)

 

 

 悪行超人軍団が、若き超人を育成するために作った施設、デーモン・メイキング・プラント(略してd.M.p)。その本拠地は富士中腹にあり、日夜地獄のような訓練が繰り広げられていた。

 …とはいえ、不健全なる精神なれども、やはり強さの資本は体にあり、頑強かつ、屈強な体を作るために、栄養価の高い食事は不可欠であり…。

 その食堂に、ある日投票箱が設置された。「新メニュー募集」と書かれた投票箱は、どうやら、来月の献立を決めるためのものらしい。

 昼食を終え、口笛を吹きながら、食堂を出て行こうとしたマルスがそれに気づいて足を止めた。すると、そのすぐ後を歩いていたケビンマスクが急に立ち止まったマルスにぶつかった。

「おい、マルス…邪魔だ…」

 と言いかけたケビンマスクの肩をマルスが小突く。

「見ろよ、ケビン、あれ」

「ん…?」

 マルスの指差した先の机の上には、投票箱と、用紙に紙。

「おもしろそうだ、ちょっと書いてこうぜ」

 がたり、と椅子に腰掛ける。

「お前も書けよ、何かねーの?食いたいもんとか」

「そうだな…」

 少し考えた横で、シャカシャカと、エンピツを走らせる音が聞こえてくる。見ると、チェックメイトとレッスルキングが、何枚もの紙に筆跡を変えて、『玉子の白身』と『皮をハイだチキン』を何枚も書きなぐっている。

「…っ何やってんだ、お前ら」

 マルスが立ち上がって青筋をたてながらいちゃもんをつける。

「…フッ!知れたこと!スタミナがあり、力あふるる肉体をつくるには、低カロリー高タンパク!これが一番だっっ!!」

「冗談じゃねーーーー!!やめろ、てめーら、お前らはコーチ命令で別メニューじゃねえか!俺らをまきこむんじゃねぇ!勝手にタンパク摂りやがれ!」

「サンシャインヘッドの言う事に間違いがあるかーーーー!!」

 チェス・ピースチェンジでルークに転じたチェックメイトの馬式誉れ落としがマルスを襲う。マルスは身をかわし、突き上げるように頭突きを加えると、得意のスワロウテイルでチェックメイトに落ちかかる。

 唐突にバトルを始めた二人を止めるでなく、ケビンマスクは先ほどまでマルスがかけていた椅子に腰をおろし、

「食べたいもの…か」

 と、思案にふける。8歳で故郷、イギリスを飛び出したケビンの食べたいものは随分前からあったのだが、…多分それは不可能だろう、と、一人、世界を作って自嘲気味に微笑む。(といっても、マスクに隠れて他人にその表情が気取られる事はないのだが…)

 気配を殺すようにして、そぉっと、2本の手が投票箱に伸びた。見ると、それは携帯電話に手足の生えたテルテルボーイとスニーカーに変身できるMAXマンだった。

 ケビンと視線が合うと、二人はばつが悪そうに笑う。

「…見せろ」

 むんずと、二人の腕を掴んで投票用紙をとりあげると、

『電気』
『シューズクリーナー』

 と、書いてある。

「まて、こりゃ食いモンじゃねーだろ」

 チェックメイトを沈めたマルスが、ボロボロになりながら覗き込む。

「いや、やっぱこういうのは参加する事に意義があるのかと…」

 へらへら笑いながら答えるテルテルボーイにマルスのアルティメットバスターが炸裂した。

「電気やシューズクリーナーが食えてたまるかー!」

 二人を相手に、またぞろ始まったマルス君お仕置き劇場を尻目にケビンマスクは、さらさらと投票用紙に書き込み、箱に入れると、そそくさと立ち上がり、その場を後にした。

「栄養が高くて、体にいいのはイタリアンだーーーーっ!」

 というマルスの絶叫が食堂に響いた。

 かくして、翌月、食堂のメニューに何故かローストビーフとヨークシャー・プディングが加わったのを、知っているのはケビンマスク一人。「マミーのものより味が落ちるな」と思いつつ、おかわりをする、いまだ少年然とした姿がほほえましかったとかなんとか。

(了)

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