「らしくないんじゃないの?そんな風に夢中になるなんてさ」
「そんなことないぜ、俺、一度決めたら後にはひかない性質」
「確かに、猪突猛進ですね」
収録を終えたスタジオをあとに、誰もいない廊下を並んで長身の青年が三人、三人だけの気安さから素に戻って軽口を叩き合う。
常に人の目を意識するアイドルである彼らのつかの間の時間。話題にあがっているのはクラスメートの気になる女の子事で、ありふれた話題が少年の名残を感じさせる。
冷淡に言い放つのは夜天、
きっぱりと言い切るのは星野、
容赦ないのは大気。
三人は「スリーライツ」という売り出し中のアイドルで、話題にのぼっていたのは彼らのクラスメートでもある少女、月野うさぎのことだった。
月野うさぎ、長い髪を左右二つにくくって垂らしたシルエットはまさにたれ耳うさぎのよう。星野曰く『おだんごアタマ』な彼女は意外にも彼氏もちなのだ、しかも大学生の。
けれど噂の彼氏は海外留学中との事で、本当のところはどうなのかはわかっていない。
「手に入らない、って思ったから、余計欲しくなってるんじゃないの?」
控え室でタイを緩めた夜天がソファに寝転ぶと、シワになりますよ、と言いながら大気は自分で脱いだジャケットと、夜天が脱ぎ捨てたジャケットをハンガーにかけた。
「バーカ、そんなんじゃないって」
否定の言葉をひとつ残して星野はシャワー室に入り、手早く衣装を脱ぎ、コックをひねった。
熱をはらんだ体に、ぬるめのシャワーが心地よい。夜天と大気の会話はシャワーの音にかき消されて聞こえない。自分にとって不本意な話に花を咲かせているんだろうとため息をつきながら、星野は既に彼女の事を考えはじめていた。
野の花をめでるように、
夕暮れにほっとするように。
はじめは無意識に、視線のはしにとらえていた。
ぎゃーぎゃーとうるせー女だとも思った。
星野をアイドルとも思わないようなぞんざいな態度、最初ポーズかとも思ったそれはどうも天然であることはすぐにわかった。
目の前の楽しみに弱く、情にもろく、やかましく、いいところなどひとつもないような女。
「目的、忘れないでよね」
腰にバスタオルを巻いただけの姿でシャワー室を出たところで夜天に釘をさされた。
「眺めているだけがいいと思いますよ、彼女のような、野に咲く風情の女性はね」
大気が知ったような口をきく。
野の花、ね。
二人には聞こえないようにつぶやく。
手折りたい、手折れない。
そんな、野のばら。