失われた美しさを埋めるため、私の脳は嘘をつく。
残された記憶は捏造され、確かめようの無い事実を歪めていく。
デリケートな美しさ、それは私の頭の中にあり、美しいと感じさせる何かの作り出したまぼろしのようなものなのだ。
「デリケートというのは、美が美でなくなってしまう危うさではないでしょう」
そう、ひとりごち、手の中の薔薇を手折る。
手折られた薔薇は、今はまだ美しいが、やがて枯れてしまうだろう。
けれど、私が手折らなくても、いつか薔薇は枯れてしまう。
種を残すための開花であるはずが、いつしか造形で見目を楽しませるよう歪められた植物。
この薔薇は、本当に美しいのだろうか。
ひどく、色あせた薔薇の棘が、私の手に傷を作る。
「何ボーっとしてんだよ」
いつの間にやってきたのか、横には星野が立っていた。
「めずらしいですね、君が温室に顔を出すなんて」
「今日は雨だからな」
見上げると、アクリル張りで透明な温室の屋根は、雨に穿たれている。
「気づきませんでした、そうですね、そういえば、空気が冷たい」
「いい詩、できそうか?」
「作詞をしていたわけではありませんよ、ちょっとぼんやりしていただけで」
思いがけずやってきたこの惑星で、私達は歌を生業とした。
失われたプリンセスを探す旅の途中で。
星野が曲を作り、私が詩をつける。
とうに忘れた言葉たちが、堰を切ったようにあふれ出る。
人生は本当に予測がつかない。
こうして言葉を繰る日が再びくるとは思わなかった。
セイラースターメイカー
本来は創造者である名。
けれどあの日、ギャラクシアがキンモク星に現れてから日々は戦いに彩られる。
今もって戦いの日々に身をおいているはずが、束の間得た貴重な時。
それもまた、いつ失われるとしれない束の間の夢。
ふっと、微笑んだ私を、星野がけげんそうに眺めているのがわかる。
「なんだよ、思い出し笑い?」
「いえ、違います。自分の身勝手に少しあきれただけですよ」
でも少し、あともう少し、と、祈るように雨をはじく透明な天井を見上げた。