猫の国、王付き第一秘書ナトリ氏は、引継ぎ作業に余念が無かった。王とともに引退を決意した彼は、第二秘書ナトルに、己の仕事すべてを引き継ぐつもりであった。
「ナトリ様ぁ〜、こぉんな短い時間に、私には無理ですよぅ〜」
まんまる顔のナトルがぼやいた。
「何を言うんですか、ナトル、私がいなくなったらお前が第一秘書です。即位なさるルーン王をお助けし、宮廷典礼、その他もろもろ、誰が中心となってやるんですか?!」
「でもぉ〜」
ぼやくナトルを、ナトリが小突いた。
その時、ノックの音がした。
「失礼いたします」
声がして、後に、黒猫が続いた。入ってきたのは、近衛隊長のミカエルだった。
「ナトリ様、経済連よりの使者をお連れいたしました、猫柳の間にお通ししてあります」
「うむ、わかった…、ではナトル、私が戻るまで、典礼三〇条まで目を通しておくように」
「はーーーい」
ナトリが出て行くと、部屋にはナトルとミカエルが残った。
「はにゃ?ミカエル殿は行かないのですか?」
「いえ、私は…」
答えてミカエルはナトルに向き直った。
「ナトル様は…、ルナルド=ムーンについてご存知ですか?」
「ルナルド?…ああ、ムタさんの事ですか?ハル様の従者の方ですね」
ナトルはいまだにムタの事をハルの従者だと思っている。
一方その頃…。
ハルは、やすらかな眠りに身をまかせていた。そこはとても暖かくて、いつまでも眠っていたいような気がした。ゆっくりと、目を醒ますと、そこは草原で、天から光が降り注いでいる。どこかパステルトーンな色調のそこは、見覚えがあった。
「…ここ、どこぉ?」
寝ぼけた頭で、必死で考える。
「…目が醒めたか」
ハルが見上げると、二本足で立つ、黒い猫がいた。
(…to be continue)